国宝 山越阿弥陀図(原寸大復元屏風装)
![]() 一幅 顔彩方式絹本着色 なだらかな稜線のつづく山々の向こうから、転法輪印を結んだ阿弥陀如来が、正面を向いて上半身をあらわしている。阿弥陀如来の背後には、大海が広がっている。観音菩薩と勢至菩薩が踏みわり蓮華に立ち、白い雲に乗って山を越え、往生人に向かって今まさに来迎せんとする様子が描かれている。観音は往生人の乗る蓮台を両手で差しだし、勢至は合掌し、両菩薩ともに身体を前にかがめ死を迎える人の心に優しく寄り添う。両菩薩の前方には、四天王が左右に立ち、臨終を迎える人が極楽往生できるように力強く見守っている。あわせて二人の持幡童子が幡を掲げて、往生人を阿弥陀如来の方向に導こうとするのである。この四天王と二童子は、三善為康著『拾遺往生伝』(1132年)に記載されている。阿弥陀如来は、背にほのかな白銀色の円光背を負い、画面左上のすみには、月輪中に、大日如来の種子「阿」字が悉曇文字で記されている。密教の『大日経疏』などによれば、阿字は、本不生、すなわち、「あらゆるものが空であり生滅がないこと」「万有の根源」を象徴する。この山越阿弥陀図全体の清らかで透きとおった色調と月輪中の阿字とが指し示すように、月の光が山の向こうから届く情景を、阿弥陀如来と観音・勢至の来迎にたとえたのであろう。阿弥陀如来・観音・勢至の三尊の身体は、ともに金泥で飾られ、法衣の彩色には、金・銀泥や切金が用いられ、繊細で柔らかな印象を与える。山裾には、桜や紅葉が描かれ、日本人の愛する自然がこの絵に込められていることがわかる。 (鍋島直樹) |
山越阿弥陀図(やまごしあみだず)
