青瓦台内部で恐れられた“クネビーム”とゆがんだ忠誠心 元ソウル支局長・加藤達也
産経新聞 12/10(土) 7:55配信
朴槿恵大統領の弾劾訴追案の採決に先立ち、韓国国会では野党議員が「(朴氏は)言論の自由を侵害し、憲法違反に当たる」と指摘した。朴氏の名誉を毀損(きそん)したとして告発され、議員らから恫喝(どうかつ)まがいの言葉を投げられた身として、当時との違いを興味深く見た。
韓国では2日、今年8月に亡くなった大統領府(青瓦台)の金英漢(キム・ヨンハン)元民情首席秘書官が記したとされる政権内の対メディア方針のメモが公開された。「言論の自由の侵害」とはこのメモの内容を指すのだろう。
メモでは「懲らしめる」と名指しされた産経以外にも保革、左右と多くの韓国メディアが攻撃の標的になっていた。青瓦台の強硬な対メディア姿勢の根底に何があるのか、改めて考えさせる内容といえる。
例えば朴氏の元秘書で実権を握るとされた鄭ユンフェ氏が、朴氏の実弟を尾行した疑惑を書いた雑誌メディアについて、メモは「見せしめにしなければ」と指弾しているのだが、続けて次の表現があった。
「先制して熱誠と根性で抜本塞源」-。記載の上には「領」の文字があり、朴氏が直接指示した内容とみられている。「抜本塞源」とは、木の根っこを引き抜いて問題の源をふさぐという意味だが、あえてこんな漢語表現を使うあたり、朴氏の断固たる思いが伝わってくる。
青瓦台内部では、朴氏の視線は「クネビーム」と呼ばれ恐れられていたという。メディア統制を検討する会議では、報道内容に怒る朴氏の表情や視線に萎縮しながら、高官らが熱心に書き取っていたのだろう。
メモには青瓦台から内部情報が漏洩(ろうえい)した際、金淇春(ギチュン)元大統領秘書室長が吐いた言葉も書き留められていた。「大統領への忠誠・愛は『自己犠牲』によって表現すべきだ」-。朴正煕(チョンヒ)元大統領時代から親子に仕えてきた金氏の深い忠誠心をうかがわせる。
韓国では後継を決める大統領選をめぐり保守派が追い詰められていると聞く。いずれにしても次期政権がゆがんだ忠誠心を放棄できるかどうか、注視したい。(社会部編集委員)